記憶の交差点
建築家が手がけた角地にひらく店舗と、
庭に包まれる平屋の住まい。
An architect designed commercial space that opens onto a prominent street corner,
paired with a serene single story residence embraced by a lush garden.
A harmonious blend of architecture, nature, and everyday living.
建築家が手がけた角地にひらく店舗と、庭に包まれる平屋の住まい。
An architect designed commercial space that opens onto a prominent street corner, paired with a serene single story residence embraced by a lush garden. A harmonious blend of architecture, nature, and everyday living.
土地探しの段階から二方向の道路が交わる角地であることが条件だった、緑豊かな立地に建つ「記憶の交差点」は、シルバーアクセサリーの店舗と住まいを一棟に収めた平屋です。街に向かってひらく店と、内側へ閉じて家族を包む住居。役割の異なる二つを、角という場所の性質を使って無理なく共存させています。
建築家コメント
二つの道路に面した角地の特性を活かし、店舗の存在感と住まいのプライバシーを両立させた店舗併用住宅。街にひらかれた店舗は、二方向からの視認性を高めながら、売り場と作業スペースを分けることで、すっきりとした空間に。一方、住居部分は道路からの視線や生活感に配慮し、LDKや水回りを配置しています。アウトドアを楽しむご家族のために設けた広い土間収納は、店舗備品も収められる機能的な空間。南の庭とつながるLDKには大きな窓を設け、光と風をたっぷりと取り込みます。さらに、天井の一部に高さを持たせることで、伸びやかな開放感を演出しました。
街とつながる店舗、庭とつながる住まい。 それぞれの心地よさを大切にしながら、仕事と暮らしが自然に調和する住まいです。
二方の道路が交わる位置を、あえて選ぶ
敷地は約310㎡。北と西の二方向が道路に面した角地で、店舗を営むうえでこの条件は決定的です。通りを行く人の視線が二方向から届くため、看板を大きくせずとも建物そのものが目印になります。土地を探す時点でこの形を求めたという判断が、計画全体の出発点になっています。
建物は角に寄せて配置され、西側に4台分の駐車スペースをまとめています。南側には広い庭が確保され、そこに植えられた一本の木が、通りからも視界に入る位置に据えられました。店の前を通り過ぎるだけの人の記憶にも残る風景として、庭が設計の対象になっている点が特徴的です。
外壁は濃いグレーの塗り壁で、屋根は緩やかな片流れ。平屋の水平線がそのまま街並みに沿って伸びていきます。サッシは内外ともブラックで統一され、水切りや樋、外部フードといった細かな金物まですべて黒。開口部の縁が消えることで、グレーの面が一枚の壁として読めるようになっています。
人を導く、一枚のアクセントウォール
この単色の構成のなかで、一箇所だけ色が変えられています。店舗の正面に立つ袖壁だけが明るいグレーで塗られ、濃いグレーの本体から切り離されて前へ出る。サインと照明はこの壁に集約され、店の入口がどこにあるかを、文字より先に色と面で伝えます。
角地の建物は二方向から見られるぶん、輪郭がぼやけやすくもあります。一枚だけ明度を上げた壁を差し込むことで、交差点から見たときの視線の行き先が定まる。装飾としてではなく、人を導く装置として壁の色が使われています。
玄関ポーチは深く彫り込まれ、床はモルタルの金ゴテ仕上げ。ドアはポリッシュシルバーで、グレーの壁面に対して光を反射する素材が選ばれました。住居の入口は店舗のサイン壁とは離れた位置に置かれ、来客と客層が交ざらないよう動線が整理されています。
売り場と作業場を分けることで、店はシンプルになる
店舗部分は、売り場と作業スペースを明確に分けた構成です。制作の道具や材料が売り場に出てこないため、商品だけが並ぶ静かな空間が成立します。壁と天井には住居部分とは別のクロスが選ばれ、窓枠は四方をクロスで巻いて縁を消すことで、面としての連続性が保たれました。
床はここもモルタルの金ゴテ仕上げ。壁に沿って造作された棚には棚下に間接照明が仕込まれ、シルバーアクセサリーの小さな面が光を拾うように計画されています。巾木はアルミ調のものに変えられ、壁と床が接する線までグレーの階調でまとめられています。
道路側には大きな窓が設けられ、外から店内の様子がうかがえます。閉じた壁で構成された住居部分に対し、店舗だけが街へ視線を通す。同じ一棟のなかで、開くべき場所と閉じるべき場所が明快に分かれています。
作業スペースにはステンレスの二連シンクと可動棚が並び、制作の手元を支える設備がまとめられました。売り場との間には棚を兼ねた開口が設けられ、作業の途中でも来客に気づける関係が保たれています。
生活感を道路へ出さない、という平面の原則
角地は視線が集まる場所であり、それは住まいにとって必ずしも歓迎すべきことではありません。この計画では、LDKと水回りを道路から離れた南側へ寄せることで、生活の気配が通りに出ないよう組み立てられています。
洗濯物や食事の風景、夜の明かり。日常の断片が街に向かって開くのではなく、南の庭に向かって開く。二方向が道路という条件の下で、プライバシーの取り方が平面の骨格そのものになっています。
庭とつながる大開口と、少し高い天井
LDKは約19.5帖。南の庭に面して大開口の窓が設けられ、光と風がまっすぐ室内へ抜けていきます。窓の外はタイル張りのテラスを経て芝の庭へと続き、床レベルの段差が二段に抑えられているため、内から外への移動が軽やかです。
天井高は基本的に2,400mmですが、一部を2,580mmまで持ち上げ、その折り上げ部分にコーブ照明を仕込んでいます。器具の光ではなく天井面が反射した光が室内に回り、平屋のわずかな天井差が視覚的な広がりに変換されています。
キッチンは約3.75帖分の面積を取ったグレーのフレーム構成で、ステンレスのシンクと背面の吊戸棚・カウンターが同一のトーンでまとめられました。すぐ脇にパントリーが接続し、食材やストックが表に出ない。床はウォルナットの突板フローリングが全体に連続し、グレーで統一された面のなかに木の色が一種類だけ置かれています。
一列に並ぶ水回りと、棚を組み込んだクローゼット
洗面、ランドリールーム、浴室、トイレは北東側に一列で配置されています。洗面はワイドなカウンターに三面鏡を合わせ、壁付けの水栓とダークトーンのカウンターで構成。高い位置の横長スリット窓から光だけを取り込み、外からの視線は届きません。
ランドリールームには木天板の作業カウンターと黒い室内干しパイプ、そしてガス乾燥機が納まります。洗う、乾かす、畳むという一連の動作が同じ場所で完結し、床はタイル貼りで水気にも強い仕上げです。
主寝室に接続するウォークインクローゼットは、ハンガーパイプと可動棚を組み合わせた構成。吊る衣類と畳んで置くものが同じ空間で分類でき、奥には一段低い棚も設けられています。個室は主寝室に加えて約7.0帖と約4.38帖の2室が南東側にまとまり、寝室群と水回りが短い距離で結ばれています。
濃いグレーの箱に、黒とウォルナットを重ねる
室内建具はチークのような深い色味に統一され、ハンドルは黒いアイアン、蝶番は表に出ないシークレットタイプ。壁と天井は同じクロスで巻き、見切りを減らすことで面の連続性が保たれています。
黒い金物、グレーの壁、ウォルナットの床。色数を三つに絞ったうえで、照明だけが多様です。コーブ照明、ブラケット、ペンダント、棚下の間接照明——器具を見せる場所と光だけを見せる場所が部屋ごとに切り替わり、夜になると同じ空間が昼とは違う輪郭を持ちます。
角地をポジティブに捉える建築家のアイデア
街に向かって一枚の壁で呼びかけ、庭に向かって大きく開く。角地という条件を制約ではなく資源として読み替えたことで、店と住まいは互いを損なわずに一棟に収まりました。通りを歩く人の記憶に残る庭を持つこと、そして家族の時間が光と風とともに流れること。その二つを同時に成立させる場所として、交差点という立地が選ばれています。




